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コラム
2025.07.22
農業者の権利 種苗法
【農業者の皆様へ】知らないと損する?!種苗法、ここだけは押さえておきましょう!
1.種苗法って、そもそも何?
一言で言うと、「新しい品種を作った人(育種家)の権利を守る法律」です。
私たちが栽培する多くの優れた品種は、育種家が長い時間と費用をかけて生み出したものです。種苗法は、その努力を報い、さらに良い品種が生まれ続けるよう、育種家が持つ「育成者権(いくせいしゃけん)」を保護しています。
この育成者権があることで、育種家は安心して開発に投資でき、結果として私たち農業者は高品質で安定した品種を栽培できるのです。
2.「育成者権」って具体的にどんな権利?
育成者権は、特許権などと同じく、「新しい品種」という知的財産を守る独占的な権利です。
- 独占的に生産・販売できる: 権利者だけが、その品種の種苗を生産・販売できます。
- 許諾(許可)できる: 他の人が利用するには、権利者の許可(通常、使用料が発生)が必要です。
- 無断利用の差し止め・賠償請求: 無断で利用された場合、利用中止や損害賠償を請求できます。
この権利には、保護期間があります。
- 原則25年間: 品種登録の日から25年間保護されます。
- 果樹等は30年間: 果樹や林木、観賞用樹木などは30年間です。
期間が過ぎれば、誰でも自由にその品種を利用できるようになります。
3. 育種家が権利を主張するために行う「品種登録」とは?
育種家が苦労して開発した新しい品種の育成者権を法的に保護してもらうためには、農林水産省にその品種を**「品種登録」**する必要があります。これは、その品種が特定の基準(新規性、識別性、均一性、安定性、名称の適切性など)を満たしていることを国が認め、正式に権利を付与する手続きです。
品種登録が認められると、育種家はその品種に対する独占的な権利(育成者権)を持つことができ、無断での増殖や販売を防ぐことが可能になります。これは、育種家の努力を適正に評価し、さらなる新品種開発へのインセンティブとなる非常に重要な仕組みです。
品種登録の手続きは、主に以下の流れで進みます。
- 出願: 新しい品種の開発を終えた育種家は、農林水産省に品種登録の出願を行います。この際、育成した品種の特性や由来などを詳しく記載した書類を提出します。
- 書類審査: 提出された書類に基づいて、品種が登録の要件を満たしているかどうかの形式的な審査が行われます。
- 栽培試験: 書類審査を通過すると、実際にその品種を栽培し、提出された特性が正しいか、他の品種と明確に区別できるか(識別性)、同じ条件で育てた場合に均一な特性を持つか(均一性)、世代を経ても特性が安定しているか(安定性)などを確認する**「栽培試験(現地審査や圃場審査)」**が行われます。この試験には数年かかることもあります。
- 登録査定: 栽培試験の結果、品種登録の要件をすべて満たしていると判断されると、登録査定が行われます。
- 登録・公示: 登録査定を経て、正式にその品種が「品種登録」され、農林水産省の公報に公示されます。これにより、育成者権が発生し、育種家は法的保護を受けることができます。
4.2020年改正!農業者が知るべきポイント
日本の優れた品種が、海外に無断で持ち出され、そこで栽培・販売されてしまう「流出問題」を防ぐために、種苗法の改正は不可欠でした。例えば、皆さんもご存知の「シャインマスカット」のように、日本の育種家が苦労して開発した品種が、海外で無断で栽培・販売され、日本の生産者が大きな損害を被るケースが後を絶ちませんでした。これは、育成者の努力が報われず、ひいては日本の農業全体の競争力低下にも繋がりかねない問題です。このような事態に対処し、育成者権をより強化して国際的な保護を確実にするため、法改正が必要とされたのです。これは、日本の品種を守り、日本の農業の価値を高めるための重要な一歩と言えます。
この改正は、いくつかの段階に分けて施行されました。
- 2021年4月1日施行:
- 海外への持ち出し制限(輸出先国の指定)
- 国内の栽培地域の指定
- 登録品種である旨などの表示義務化
- 2022年4月1日施行:
- 登録品種の自家増殖について、原則として育成者権者の許諾が必要となる
したがって、最も新しい規定が全面施行されたのは2022年4月1日です。
この日をもって、2020年の改正種苗法の内容が完全に適用されることになりました。
5.なぜ改正されたの?私たち農業者にとってのメリット・デメリット
これまでの種苗法では、品種登録されている品種であっても、農業者が収穫物から採った種や苗を翌年も自家用に使う「自家増殖」は、育成者権者の許諾なく行えるとされてきました(ただし、海外では自家増殖にもロイヤリティが発生する国が多数あります)。
しかし、2020年の改正種苗法では、原則として、登録品種の自家増殖にも育成者権者の許諾が必要となりました。
「え、今まで通り自由に自家増殖できないの?」と不安に思われたかもしれません。しかし、誤解しないでほしい点があります。
- 全ての品種が対象ではない: このルールが適用されるのは、種苗法に基づいて**「品種登録」されている品種だけ**です。昔からある在来品種や、品種登録されていない品種は、これまで通り自由に自家増殖できます。
- 許諾は取りやすくなった: 国への手続きを行うことで、登録品種の自家増殖についても、育成者権者から許諾を得やすくなる仕組みが作られました。また、各育種家が「この品種は自家増殖OK(許諾不要)」と決めることも可能です。
- 情報公開されている: どの登録品種が自家増殖に許諾が必要か、どこに連絡すればいいかなどの情報は、農林水産省のホームページなどで公開されています。ご自身の栽培している品種が登録品種か、自家増殖のルールはどうなっているのか、一度確認してみることをお勧めします。
6. 農業者にとってのメリット・デメリット
種苗法改正は、農業者の経営にどのような影響を与えるのでしょうか。
メリット:
- 日本の品種ブランド力向上: 育成者権が守られることで、日本の品種が正当に評価され、国際競争力が高まります。結果的に、日本の農産物全体の価値が向上し、高値で取引される機会が増える可能性があります。
- 新品種へのアクセス: 育種家が開発に安心して投資できるため、さらに病気に強く、収量が多く、品質の良い、魅力的な新品種が次々と生み出され、私たち農業者が利用できる機会が増えることが期待されます。
デメリット/注意点:
- 自家増殖コストの発生: これまで無料で行っていた自家増殖に、許諾料が発生する可能性があります。栽培計画やコスト計算に影響が出る場合があります。
- 情報収集の必要性: ご自身の栽培する品種が登録品種か、自家増殖のルールはどうなっているかなど、最新の情報を自分で確認する手間が増えます。
7.まとめ:種苗法を理解し、賢く経営に活かそう!
種苗法は、一見複雑に思えるかもしれませんが、日本の農業の未来を守り、発展させるために重要な法律です。
ご自身が栽培している品種が「登録品種」であるか、その品種の「自家増殖に関するルール」はどうなっているか、一度確認してみてください。
不明な点があれば、地域の農業指導機関や種苗会社に相談するのも良いでしょう。
この法律を正しく理解し、賢く対応していくことが、これからの農業経営には不可欠です。